気が付けば早いもので、NYに住みはじめて20年以上が経つ。今までにもそんな気持ちになったことは何回かあるけれど、寝てまた起きれば新しい日が始まり、気が付けば日々の生活に追われている…。

鈴木大器氏のブログ(www.nepenthes.co.jp/)を読んでいて思い出した。そう、僕にも似たような経験があった。僕の場合は、もう少し後味がすっきりしないけれど…。

NYに住みはじめて最初の年、フリーマーケットで働いていた僕はちょっと寝坊をしたので急いで仕事場に向かっていた。交差点を足早に渡るとき、視界の隅に気になる何かがちらっと映った。

見てみると、数年前に最後に会ったきり消息の分からなかった友人が女性を連れて歩いている。まさかこんなところで、しかも彼はある事情で法律的にアメリカには来られないはずであったのに。

声をかけてみると相手もびっくりしたようで、でもとりあえず事情を聞いてみた。アメリカ大使館から一週間のみの滞在許可がおりたので、それで昔から来たかったNYに来たらしい。その時点ですでに一週間は過ぎていた。

ミュージシャンで、またDJでもあったNは、フリースタイルな生活を送っていた。芸能人がらみのある事件で検挙されてから、友人であるHと共に服役していた。その後会うチャンスがないまま、僕はNYに渡った。

ともあれ、彼はNYに住み始めた。NYに来た目的のひとつが、やはり好きな音楽をやること。そしてもうひとつは仲のよかったHの遺骨を、Hのいちばん好きだったアーティストであったAL GREENが牧師を務めるジョージア州アトランタにある教会の庭に撒く、ということであった。

そのときにはじめてHが自殺したことを知ったのだが、彼も同じくDJで、独特なキャラクターと光るセンスでとても気になる存在であった。そのHの遺骨の一部をNはNYに持ってきていたのだった。

そんなこんで一年ちょっと経ち、僕は僕でそれなりにバタバタと暮らしていたが、ある日Nから電話があり、明日帰国するから一緒にメシでも食べないか、ということであった。

会って話を聞いてみると、紹介したレストランで働くのもそろそろ潮時で、また音楽業界の事情も彼のイメージとは異なり、あまりエキサイトできるものではなかったようだ。

とりあえずもう少し居れば、と話してみたが、チケットもとったし、彼の気持ちは変わらないようなので、僕のアパートでメシを食べ、そして帰っていた。

そして数年後、たまたま帰国した際にばったりNの友人と会い、Nのことを聞いてみたら、なんと彼はNYで自殺したということであった。

いつ、どこで? なんで相談してくれなかったのか…。時すでに遅し、とはまさにこのことだ。自分の非力さを思った。

先立ったHも、そしてNもそうだが、共に際立った才能があるにもかかわらず、なぜか死に急いでしまった。

たまに思い出すたび、彼らが生きていれば何かが変わったのではないか、と思うことがある。彼らのセンスは、今の世の中に必要な気がしてならない。
Peace。(オオフチ)