その瞬間を鮮明に思い出させる出来事って最近はなかった気がします。

プリントした写真が入っている箱を何年かぶりに引っ張り出し見ていたら衝撃写真が出てきました。この写真を最後に見たのは10年以上も前かもしれません。昔ハーレムに住んでいたときに撮ったものなので、住んでいた状況に軽く触れたほうがより見えるかもしれません。

住所は112ストリートのセイントニコラス。そこに87年から92年まで住んでいました。アパートは6階建てのビルの3階でした。 
住み始めると当然なことですが、近所の出来事は生活の一部として溶け込み始めます。ニューヨークには27年も暮らしていますが、ハーレムでしか体験できないことってたくさんあります。もちろんいいこともありましたが、悪いことはどうしても目立っちゃいます。

向かい角のデリ。引っ越してきた当時はゲーセンでした。数年しないうちにデリにかわったのですが、不思議なのは缶詰類、インスタント類、保存が利くものが多い店でした。 
夜間営業のデリは回転式扉でやり取りをすませるところが多く、このデリもそのタイプでした。夜中でも人が2、3人並んでいることが多かった店です。お金を払い、茶色い紙袋を手にして去る。どんな店かお判りと思います。

大晦日。年が明けた瞬間は賑やかです。窓から外を見ていると向かい角のデリから人がひとり、ふたりと出てきます。手には拳銃。そうこうしているうちに2人とも空に向かって発砲。ひとり5、6発は打っていましたね。数分するとパトカーが巡回に来る。そしてまた打つ。時にはそれがショットガンだったり……。独立記念日や大晦日はこんな感じでした。

銃声を聞くことが日常的になっていました。屋上に行くたびに数個の薬莢は拾っていました。そんな環境でした。余談ですがそのデリは映画『Sugar Hill』のロケにも使われた場所です。古い映画ですが。

ある日の夜中、聞きなれない音がするな、と空いている窓の隙間から外を見たら、まだ115、16歳くらいの奴が僕の住んでいるアパートの1階のフライドチキン屋のシャッターに向かってマシンガンを打ちまくっていました。腰が抜ける思いでした。

またある夜中は、遠くの銃声で目が覚め、だんだん近付いている音で窓から外を見たときには男は角でちょうど銃を構えたところでした。金色のガン。その延長線上を見ると走っている男。と思ったら銃声。足がヨレヨレってなった感じで男は倒れました。頭からは血が。目の前で。後頭部1発です。

それが上の写真です。死んだ男も拳銃を持っていましたが、倒れて数分後に通りかかった男の物になりました。満月の夜だったのははっきりと覚えています。88年か89年のことでした。(カツ)