佳作の味Vol.1
“佳作”というのは、良い意味でも悪い意味でも“佳作”。“スペシャルもの”ではないけれど、気がつけば今日も“佳作な古着”に手が伸びています。
自分にとっての佳作は、主に以下の2タイプ。
(1)全体に軽い感じの気に入り具合で、特に着た感じが気に入っている。気が付けば登板回数が多く、ワードローブの有効な一部となっている。
(2)ここがこうなので、いまいち。もしくはここがこうなっていれば……。とか、スペック的には魅力があるはずでも、着てみるとなぜか光らない、という残念賞。気がつけば全然着ていない、というワードローブ的にも無効なもの。悪い見本として有効。
今回のカバーオールは(1)のタイプで、この前の日本滞在で入手。SUNTRAPのラックに掛かっていて、ピピッときたもの。見るからに佳作で、“誰にも気にされてない” オーラがビンビン漂っていました。値段は佳作らしく、たしか一万円台だったと思います。
まずはデザイン、というか全体の雰囲気。それを決定するのはまずパターン。好みで言えばなで肩、着たくなる着心地、自分の体型にあうシルエット、バランス。このジャケットは40sくらいのもので、当時よくあった廉価版タイプ。なので、すべてが生産効率とコストダウンを優先した結果のパターン、デザイン、付属となっている。この固体で言えば簡略化された前立て、台襟なし、フラップの付かない左右対称4ポケット、シンプルなカフス、そしてシンプルなボタン、とシンプルづくめ。ステッチの大きさの組み合わせ具合も、退屈ではなくていい感じ。生地に関しては合わせやすい、さほど濃淡のきつくない表情のある色目で及第点。
味わいのある形の2ピース襟とオーバーサイズ気味のネック寸、袖山側で閉じるパターンで、いい感じにセットバックされた肩シームまわり、強目の仕込み角度で小さめ目のアームホールにセットされた太い袖。そのため着ると袖は太くて余裕があるけれど、それにくらべてやけにタイトな肩や二の腕付近。このタイプのパターンは、着ていくとその人の体型に沿って馴染んでくる、というおまけがついてきます。バックパネルの切り返し具合も、背中や斜め後ろから見た感じも寛容でいい感じ。すべての要素の組み合わせが自分好みのシルエットつくりへと貢献しています。と、いろいろ理屈を並べてすみませんが、要は着ればわかります。
デザイン的にはパッと見どうでもいい感じの4つポケットだけど、いい感じに置かれた、ユル目な角度のホームベース型はいい感じ。さらに通常よく見かけるものとの微妙な差を演出している、細幅の二本針で大雑把に縫われた感じも全体のバランスにメリハリが出て○。見た感じプレーンで、でもどこか惹かれる仕上がりとなっている。
カフスはワークウエアではよく見かけるシンプルなタイプですが、曲線の具合や巾など、着込まれて出ているたたずまいとの相性が自然で美しい。着た感じも手がすっきりと長く見えて○。唯一好みでないのはバータックの色。オレンジっぽく退色した赤ですが、白やグリーンのほうが合わせやすいと見ました。
ボタンはSCOVIL製一つ足ドーナツボタンの宿命で、いくつかは着込んで抜けてしまっている。それらは当時の凡庸替えボタンによるリペアが施されており、そのイレギュラー具合が、結果的にキャラクターのアップに貢献している、と言ったらほめすぎか?
と、いろいろと説明をしてみましたが、時代背景的にもこれらはすべて偶然の産物なので、実はそんなに容易なことではありません。
などと勝手に充実してますが、仮に酔っ払ってどこかに置き忘れても後悔しないバリュー、というのもポイントですね。でも実際に無くなるとけっこう困るんですよね。(オオフチ)